続・行きつけのバー

続・行きつけのバー

そのバーは文字どおり「コの字型」のカウンターで、けして広くないその中をマスターがダンスのステップのように動き回る。軽快にサーバーからビールをつぎ、ワインを開け、カクテルを作る。

何よりも圧巻は、BGMがすべて膨大なレコードとCDのコレクションからなることだ。手が空けばヘッドフォンで頭出しをしながら、次々と名曲をつないでいく。いい感じに酔ったおじさん達が懐かしいブルースをリクエストし、エアギターをつまびく。若い子が頼んだカバー曲に「ルーツを聞け」と愉快なヤジが飛ぶ。15人も座ればぎゅうぎゅうのカウンターは自然におしゃべりの輪が広がり、いつ行ってもお馴染みさんでいっぱいだ。

行きつけのバー

マスターと初めて会ったのは、前職のフレンチレストランでだった。ビストロスタイルのカジュアルな店、ホールにいたのはオールバックで口髭をたたえた姿。イタリアマフィアのようなキザ加減が悪くなかった。

西洋では、店の繁盛はホール係にかかっていると聞いたことがある。お客の要望を的確に判断し、オーダーのコーディネートもする。ワインにソムリエがいるように、料理の注文はホールの腕ひとつと言うわけだ。
マスターはまさしくそのポジションにあって、軽快なおしゃべりと行き届いたサービスは、いつも美味しい時間を過ごさせてくれた。

行きつけのバー 行きつけのバー

そんなマスターが開けたバーだから、夜な夜な遊びを知っている大人達が集う。飲食業を始めたい若者はアドバイスを求め集まる。音楽を愛し、カメラを操る、アメリカにも住んでいた趣味人だ。壁にはエレアコがぶらさがり、モノクロームの海外スナップで飾られている。

ここにもいろんな相手と連れだったが、会わなくなってからも店は気に入り、すれ違いながら通っていると便りに聞いたりする。
「昨日久しぶりに○○君が来たよ」懐かしい名前だった。
「転勤で離れるからって挨拶だったよ。遠くなるね。それでね…」
流れてきたのは、ダニー・ハザウェイがカバーしたキャロル・キングの「ユー・ガッタ・フレンズ」だった。

「いつか主ちゃんが来たらかけてあげてくれって。すぐ次の日だったねぇ」
ホントにねぇ、と苦笑する。ダニーが『いつでも名前を呼んでくれたらかけていくよ、君は僕の友達だから』と唄っている。男は思い出でお酒が飲めて安上がりだよねぇー、とひとくさり。
「主ちゃん、明日は仕事?」
「もちろん!連休前で忙しくって」

でも今夜は、もう一杯飲んで帰ろう。もう一人で平気よと、思い出さなくなるまで、酔ったふりでもしながら。

Donny Hathaway – You’ve Got a Friend

 

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